女性ヘルスケア専門研修プログラム

1.理念と使命
女性ヘルスケア専門医とは、思春期から老年期までの全てのライフステージにおいて、女性に特有な心身にまつわる病態を的確に診断・治療するとともに、女性のQOLの維持・向上のために主として予防的観点からこれらの病態に対処することのできる、いわゆる女性医学の知識と技能を有する医師である。
 女性ヘルスケア専門医制度は、女性ヘルスケア専門医として有すべき診療能力の水準を明示するための制度である。女性ヘルスケア専門医制度は、患者に信頼され、女性医学に必要な標準的な医療を提供でき、プロフェッショナルとしての誇りを持ち、患者への責任を果たせる女性ヘルスケア専門医を育成して、国民の健康に資する事を目的とする。


2.専門研修の到達目標
①専門研修後の成果
専門研修修了後の女性ヘルスケア専門医は、思春期・性成熟期・更年期・老年期の生涯にわたる女性のヘルスケアを担うために、各時期に特有の病態に対して主として予防的観点から適切な検査・治療を実施できる高度な専門知識・技能を備えるとともに、日進月歩の医学・医療の発展に遅れることなく常に研鑽を積むという学問的姿勢と、医師としての高い倫理性・社会性を有する医師であることが期待される。

②到達目標
i) 専門知識・技能(診察、検査、診断、処置、手術など)
[詳細は「資料1.女性ヘルスケア専門医研修項目」参照]
 経験すべき症例については、「8.専攻医修了要件」に数値目標が設定されている。また、年次ごとの研修方法・到達目標の目安については、「3.専門研修の方法 ④専門研修中の年度ごとの知識・技能の修練プロセス」に記載されている。
・総論
 思春期から老年期までの各ライフステージに特有な心身にまつわる病態を主に予防医学的観点から包括的に取り扱うことのできる知識・技能を身につける。
・思春期
 思春期発来異常、原発性無月経、やせを伴う続発性無月経、女性アスリートのヘルスケア、性教育、思春期女子のホルモン療法など、思春期におけるヘルスケアの意義と特徴について理解し、これらに関して、1) 問診による症状の把握と記載、2) 診察による徴候の把握と記載、3) 専門的検査、4) ホルモン療法を含む治療、5) 性教育などを行うことができる。
・性成熟期
 月経関連疾患、Office Gynecologyにおける周産期異常、Office Gynecologyにおける婦人科腫瘍・類腫瘍、婦人科感染症、月経移動・避妊、性器の損傷・性器瘻、非感染性外陰部搔痒症、心身症、性機能障害、性被害、性同一性障害など、性成熟期におけるヘルスケアの意義と特徴について理解し、これらに関して、1) 問診による症状の把握と記載、2) 診察による徴候の把握と記載、3) 専門的検査、4) ホルモン療法を含む治療、5) 避妊指導、6) 生活習慣病予防教育などを行うとことができる。
・更年期
 閉経の生理、更年期障害、心血管疾患とその危険因子、閉経と骨量変化、閉経と脂質代謝異常、更年期の検査と治療など、更年期におけるヘルスケアの意義と特徴について理解し、これらに関して、1) 問診による症状の把握と記載、2) 診察による徴候の把握と記載、3) 専門的検査、4) ホルモン療法を含む治療などを行うとことができる。
・老年期
 骨盤臓器脱、下部尿路機能障害、外陰・腟萎縮症、認知機能障害、運動器疾患など、老年期におけるヘルスケアの意義と特長について理解し、これらに関して、1) 問診による症状の把握と記載、2) 診察による徴候の把握と記載、3) 専門的検査、4) 治療などを行うとことができる。
ii) 学問的姿勢
 医学・医療の進歩に遅れることなく、常に研鑽、自己学習する。日常的診療から浮かび上がるクリニカルクエスチョンを日々の学習により解決し、今日のエヴィデンスでは解決し得ない問題は臨床研究に自ら参加、もしくは企画する事で解決しようとする姿勢を身につける。学術集会に積極的に参加し、基礎的あるいは臨床的研究成果を発表する。得られた成果は論文として発表して、公に広めるとともに批評を受ける姿勢を身につける。
iii) 医師としての倫理性、社会性など
1) 医師としての責務を自律的に果たし信頼されること
 医療専門家である医師と患者を含む社会との契約を十分に理解し、患者、家族から信頼される知識・技能および態度を身につける。
2) 患者中心の医療を実践し、医の倫理・医療安全に配慮すること
 患者の社会的・遺伝学的背景もふまえ患者ごとに的確な医療を実践できる。医療安全の重要性を理解し事故防止、事故後の対応がマニュアルに沿って実践できる。
3) 臨床の現場から学ぶ態度を修得すること
 臨床の現場から学び続けることの重要性を認識し、その方法を身につける。
4) チーム医療の一員として行動すること
 チーム医療の必要性を理解し、他のメディカルスタッフと協調して診療にあたることができる。
5) 後輩医師に教育・指導を行うこと
 自らの診療技術、態度が後輩の模範となり、また形成的指導が実践できる。
6) 保健医療や主たる医療法規を理解し、遵守すること
 健康保険制度を理解し保健医療をメディカルスタッフと協調し実践する。医師法、医療法、母体保護法、健康保険法、国民健康保険法、老人保健法などを理解する。

③経験目標(種類、内容、経験数、要求レベル、学習法および評価法等)
i) 経験すべき疾患・病態・診察・検査など
[詳細は「資料1.女性ヘルスケア専門医研修項目」参照]
ii) 経験すべき症例等
(1)思春期
①思春期発来異常 ②原発性無月経 ③やせを伴う続発性無月経 ④女性アスリートのヘルスケア ⑤性教育
*①~⑤で計10例 
(2)性成熟期
①月経関連疾患 ②Office Gynecologyにおける周産期異常 ③Office Gynecologyにおける婦人科腫瘍・類腫瘍 ④婦人科感染症 ⑤月経移動・避妊 ⑥性器の損傷・性器瘻 ⑦非感染性外陰部搔痒症 ⑧心身症 ⑨慢性骨盤痛・外陰痛 ⑩性機能障害 ⑪性被害 ⑫性同一性障害 ⑬安全な人工妊娠中絶
*①~⑬で計50例   
(3)更年期
①更年期障害 ②脂質異常症 ③高血圧 ④糖尿病
*①~④で計20例 
(4)老年期
①骨盤臓器脱 ②下部尿路機能障害 ③外陰・腟萎縮症 ④認知機能障害 ⑤運動器障害 
*①~⑤で計20例 
iii) 地域医療の経験(病診・病病連携、地域包括ケア、在宅医療など)
 地域の医療資源や救急体制について把握し、地域の特性に応じた病診連携、病病連携のあり方について理解して実践できる。
iv) 学術活動
 (1)下記の学術活動によって研修単位30単位以上を取得する。
 ・本会学術集会に筆頭演者として参加 15単位
 ・本会学術集会に参加 10単位
 ・本会ワークショップに参加 5単位
 ・本会学会誌に筆頭著者として論文掲載 10単位
 ・本会学会誌に共同著者として論文掲載 5単位
 ・本会ニューズレター執筆 5単位
 (2)筆頭著者として女性ヘルスケア関連の内容の論文を1編以上発表する


3.専門研修の方法
各基幹学会専門医資格を取得後、申請時まで 3 年以上、認定研修施設において女性ヘルスケア指導医または暫定指導医の指導のもとで、以下に示す女性ヘルスケア専門研修を行った者が女性ヘルスケア専門医認定の申請資格を有する。
①臨床現場での学習
・研修1年目には認定研修施設において研修指導医の診療を見学し、あるいは症例検討会に参加することにより、思春期・性成熟期・更年期・老年期の各ライフステージにおけるヘルスケアの意義と特徴について理解する。
・研修2年目以降は認定研修施設において研修指導医の監督下での診療を行うことにより、思春期・性成熟期・更年期・老年期の各ライフステージにおけるヘルスケア上の問題について診断を行うとともに、「女性医学ガイドブック 思春期・性成熟期編」「同 更年期医療編」や「ホルモン補充療法ガイドライン」などに基づいた適切な治療を行えるよう研修を行う。
・日本女性医学学会ホームページ等を通じて取得した最新の女性ヘルスケア情報を診療に応用できるよう研修を行う。
・女性ヘルスケア指導医または暫定指導医は上記の事柄について責任を持って指導を行う。

②臨床現場を離れた学習
 日本女性医学学会学術集会(特に学会指定プログラム)、同ワークショップ、その他各種研修セミナーなどで、下記の機会を作る。
 ・ 標準的女性ヘルスケアおよび今後期待される先進的女性ヘルスケアを学習する機会
 ・ 医療安全、感染対策、医療倫理等を学ぶ機会
 ・ 指導法、評価法などを学ぶ機会

③自己学習
最新の「女性医学ガイドブック」や「ホルモン補充療法ガイドライン」「OC/LEPガイドライン」を熟読し、その内容を深く理解する。また、インターネット等を通じて最新の女性ヘルスケア情報を取得する。

④専門研修中の年度ごとの知識・技能の修練プロセス
・専門研修1年目
 認定研修施設において研修指導医の診療を見学することにより、思春期・性成熟期・更年期・老年期の各ライフステージにおけるヘルスケアの意義と特徴について理解する。
・専門研修2年目以降
 認定研修施設において研修指導医の監督下での診療を行うことにより、思春期・性成熟期・更年期・老年期の各ライフステージにおけるヘルスケア上の問題について診断を行うとともに、「女性医学ガイドブック」や「ホルモン補充療法ガイドライン」「OC/LEPガイドライン」などに基づいた適切な治療を行えるようになる。


4.専門研修の評価
①到達度評価
 専攻医が研修中の自己の成長について確認できるように、到達度評価を行う。少なくとも1年に1回は、専攻医が記録した到達目標の達成度について女性ヘルスケア指導医または暫定指導医がチェックする。

②総括的評価
 総括的評価の責任者は、女性ヘルスケア指導医または暫定指導医である。項目の詳細は「8.専攻医修了要件」に記されている。専門医認定申請年前年の12月末時点での到達目標の達成度について、女性ヘルスケア指導医または暫定指導医が症例記録と症例レポートにより確認する。
 女性ヘルスケア指導医または暫定指導医によって修了要件を満たすことが確認された専攻医は、日本女性医学学会専門医審査委員会に対して女性ヘルスケア専門医認定申請を行う。同委員会は、申請された書類および試験(筆記試験、口頭試問など)に基づき申請者の知識及び資格を審査し認定を行ない、その結果を日本女性医学学会専門医制度委員会に報告する。同委員会は、日本女性医学学会理事会の承認を得た上で、専門医資格を認定する。


5.女性ヘルスケア専門研修施設の認定基準
日本女性医学学会は、女性ヘルスケア専門研修に必要な一定の規模と教育環境を有する施設を認定研修施設として認定する。認定研修施設の認定は日本女性医学学会専門医制度委員会で審議し、理事会に推薦し、理事会で決定する。認定研修施設は、次項に定める資格条件を全て満たすものとする。
i) 2015年4月1日の時点で日本産科婦人科学会総合型専攻医指導施設であるか、または2017年4月1日の時点で産婦人科専門研修プログラム基幹施設であること。
ii) 常勤の女性ヘルスケア指導医、または暫定指導医が在籍していること。
iii) 「女性ヘルスケア専門医研修項目」に記載されている内容の診療を行うことのできる設備を有すること。
iv) 「女性ヘルスケア専門医研修項目」に記載されている内容の診療について十分な実績(註1)を有すること。
(註1)最近5年間に思春期・性成熟期・更年期・老年期の各ライフステージで最低20症例ずつ、総症例数200例以上を満たすこと。


6.女性ヘルスケア指導医の認定基準
日本女性医学学会は、女性ヘルスケア専攻医の指導を目的として女性ヘルスケア指導医を認定する。女性ヘルスケア指導医は、次項に定める資格条件を全て満たすものとする。
i) 日本国の医師免許証を有し、医師としての人格及び見識を備えていること。
ii) 連続5年以上本学会の会員であること。
iii) 日本産科婦人科学会あるいはその他の基幹学会指導医であること。
iv) 女性ヘルスケア専門医であること。
v) 「女性ヘルスケア専門医研修項目」に記載されている内容の診療と教育について十分な経験(註1)を有すること。
(註1)女性ヘルスケアの臨床に関する学会発表または論文発表が、最近5年間に5編以上あること(このうち少なくとも1編は論文発表であること、共著者でも可)。


7.女性ヘルスケア指導医・暫定指導医の認定基準
女性ヘルスケア指導医制度を運用するにあたり、原則として2015年4月1日時点における全ての日本産科婦人科学会総合型専攻医指導施設の指導責任者、または2017年4月1日時点における全ての産婦人科専門研修プログラム統括責任者、または上記指導医となるための資格条件を満たしている女性ヘルスケア専門医を女性ヘルスケア暫定指導医とする。女性ヘルスケア暫定指導医は1施設1名であり、毎年更新する。


8.専攻医修了要件
A. 症例記録
(1)思春期
①思春期発来異常 ②原発性無月経 ③やせを伴う続発性無月経 ④女性アスリートのヘルスケア ⑤性教育
*①~⑤で計10例 
(2)性成熟期
①月経関連疾患 ②Office Gynecologyにおける周産期異常 ③Office Gynecologyにおける婦人科腫瘍・類腫瘍 ④婦人科感染症 ⑤月経移動・避妊 ⑥性器の損傷・性器瘻 ⑦非感染性外陰部搔痒症 ⑧心身症 ⑨慢性骨盤痛・外陰痛 ⑩性機能障害 ⑪性被害 ⑫性同一性障害 ⑬安全な人工妊娠中絶
*①~⑬で計50例   
(3)更年期
①更年期障害 ②脂質異常症 ③高血圧 ④糖尿病
*①~④で計20例 
(4)老年期
①骨盤臓器脱 ②下部尿路機能障害 ③外陰・腟萎縮症 ④認知機能障害 ⑤運動器障害   *①~⑤で計20例 

B. 症例レポート
上記(1)~(4)の各ライフステージにつき1例ずつ症例レポートを作成する。 

C. 学術活動
(1)下記の学術活動によって研修単位30単位以上を取得する。
 ・本会学術集会に筆頭演者として参加 15単位
 ・本会学術集会に参加 10単位
 ・本会ワークショップに参加 5単位
 ・本会学会誌に筆頭著者として論文掲載 10単位
 ・本会学会誌に共同著者として論文掲載 5単位
 ・本会ニューズレター執筆 5単位
 (2)筆頭著者として女性ヘルスケア関連の内容の論文を1編以上発表する