理事長ご挨拶

日本女性医学学会理事長に再任されて

日本女性医学学会
理事長 水 沼 英 樹
平成23年4月

「更年期・老年期の生理、病理及び実地臨床に関する研究の進歩・発展を図り、もって人類・社会の福祉に貢献すること」を目的として設立された日本更年期医学会は、この四半世紀において我が国の更年期への認識を学術的にもまた社会的にも不動のものとし、女性の健康維持を実践して行く上で大きな足跡を残してきました。そして、この4月をもって、この「日本更年期医学会」の名称は「日本女性医学学会」と改称され、これまで以上の発展を目指しての活動を継続することになりました。今回、学会名称変更が行われました背景には、治療学から予防医学へという医療に対するパラダイムシフトの存在が大きく作用していることと深い関係があります。また、これまでの本学会は、いわゆる更年期に限らず、更年期・老年期に関係するテーマを思春期から老年期までのライフステージを視点とした研究発表がなされておりましたので、今回の名称変更は自然な流れの延長の上で決定されたものと理解しています。ただし、「女性医学」が真に発展していくためには、女性医学の名前の下で行うべき内容をより具体的にし、その実践方法を明確にしなければなりません。  

 日本産科婦人科学会にはその専門医認定試験で産科婦人科学の3本柱に加え、「女性医学」と名付けられた領域があり、また専門委員会として昨年より女性ヘルスケア委員会が新設されました。女性医学で課せられる問題は、女性性器の解剖および発生、女性の加齢に伴う身体(内分泌)変化を総論として、また、各論として女性のヘルスケア、更年期障害、骨粗鬆症、メタボリックシンドローム、HRT、排尿障害、婦人科心身症、セクシャリティ、さらには思春期、無月経女性のヘルスケア、産婦人科診療に必要な法律知識、ホルモン剤の基礎知識など極めて多岐にわたり、また女性ヘルスケア委員会の目的は「女性のQOL維持向上を目指し、女性に特有な疾患を予防医学的観点から取り扱う」ための専門性をより先鋭化するに必要な調査研究を行うことにあるとされています。こうしてみますと、女性医学は産科婦人科学の専門領域であります周産期医学、婦人科腫瘍学、生殖内分泌学と独立した領域というよりも、これらの3領域の基盤であり、かつ有機的に結びつける領域であると言うことができます。それではなぜ、従来の3領域を有機的に結び付ける必要があるかと言えば、「患者があって病気がある」という臨床上もっとも基本的な姿勢を専門性の理由でもって忘れてはならないと考えるからです。一例をあげますと、妊娠高血圧症候群や糖尿病合併妊婦の管理を巡っては専門領域の発展に伴い日本のどの地域でも同じような方針で行われるようになり、今や我が国の妊産婦死亡率は世界最高レベルにまで改善しています。しかしながら、これらの症例の分娩後の管理をどうしているかと言えば、ほとんど放置されているのが現状です。妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病の既往を持つ女性では将来において極めて高率に本態性高血圧や糖尿病に進展していることが理解されているのにもかかわらずです。予防医学の観点から、我々産婦人科医は女性のライフステージを通じてこれらの妊婦を診て行く時代に来ていることを強く意識すべき時代に来ていると思います。そうすることで、我々は、病気ではなく病人を診ることになり、このような姿勢をとることによって新しい産婦人科の学問領域を構築でき、かつ我々産婦人科医の職域の拡大にもつなげることが可能であると考えています。

 今回の名称変更により本学会は研究対象を単に更年期と老年期に限るのではなく、更年期・老年期の医学的諸問題を思春期から老年期までの女性の一生、すなわち女性のライフステージを研究対象とする意図を明確に表すことになりました。もちろん、本学会の基本姿勢は更年期や閉経に基盤をおくことにありますが、これらを予防医学の視点から眺め、具体的な方策を打ち立てて行くことが女性医学のあるべき姿と考えています。女性医学が産科婦人科学の専門領域の一つに発展し、真に社会や人類の福祉に貢献をできますことを期待しています。